恋、とは
恋とは、甘くてふわふわしたものだと、勝手に思い込んでいた。
こんなに辛くて苦しくて、ニガイものだと、まだ17才の私は知らなかったのだ。
先生の長くて固い腕が私の背中に回されて、ためらいがちに引き寄せられる。乱暴だけど、怯えていて、どこか優しさを感じた。恋愛において優しさというものが存在するのかは知らないが。
「嫌がってくれ」
私の肩に顔を埋めて、先生が低く呟いた。先生の声が近い。先生の跳ねた髪が頬に当たってくすぐったかった。
「嫌だって言ってくれ。情けないけど、そうじゃないとおれは、お前を離せない」
苦しそうな声だった。先生をこんなに苦しめるのは一体誰なんだろうと悲しくなったが、それが私なのだと気付くと、なんとなく胸の奥がむずむずするような、不思議な気持ちになった。
「怖いんだよ、おれ、一回りも年下の女の子相手に、本気になってさ。しかも生徒だぞ、許されるわけがないんだよ。だから頼む、おれのこと」
「嫌じゃないです」
思ったよりも自分は緊張していたらしい。声がふるえていて内心笑った。
先生が顔を上げる。どうして、とでも言いたげな、泣きそうな顔だった。
「私は、先生が好きだから。だから嫌じゃないです。……嬉しいです」
先生のワイシャツの裾を掴む。
先生のこんな表情を、はじめて見た。困りきったような、苦しんでいるような、嬉しそうな。私は国語が苦手だから、この表情がどんな感情から生まれたものなのか、どう表現したらいいのかわからない。
唇がふるえている。上手く紡げない言葉を絞り出した。
「私、先生が、すきです」
大人の恋、というフレーズが頭に浮かんだ。しかし恋愛に大人も子供も関係ないだろうとぼんやり思う。
恋とは、それがどんなものであっても、にがく、くるしく、ほんの少しだけで酔ってしまうような甘さを秘めている。
先生の腕が強く私を抱いた。もうためらいは感じなかった。
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中学のときの同級生が、高校時代の担任と結婚すると聞いて。